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人間社会(と猫)



リンコフの伝言

新卒で勤めだした会社の同期に
リンコフという女の子がいた。
リンコフというのばただのあだ名で、
たしか秋田か青森だかの出身。
どこからどう見ても普通の日本人。

その会社はあだ名で呼び合うのも
特に問題のない開放的な職場だった。
だから先輩も同期もみんなリンコフと呼んでいた。

リンコフは高卒で入社した。
東北から上京して桜の咲くころから
新宿で働き始めた。

さすが東北出身。
肌は透き通るように白かった。
いつもニコニコして性格も朗らかで
あっというまにマスコット的存在になった。

営業アシスタントの仕事をしていて
コピー取りやら伝票処理など
とにかく何もかもが新しい世界で
働くのが楽しくて仕方ないといったかんじ。

当時、外回りの営業マン・営業ウーマンとの連絡は
ポケベルが主流だった。

それなりに大きなオフィスだったけど
まわりの会話からほとんどの人が
どの課で何をしているかを把握していた。
万が一、人手が足りなかったら
誰かが助けてあげることもできる。

ある日、営業課長がリンコフに
「佐藤にお客さんから電話が入ったから
ポケベル鳴らして折り返し電話するように教えてあげて。
と指示が出た。

ポケベル時代は、「番号」で「言葉」を作っていた。
たとえば、よろしくは4649といったかんじで。
外回りの営業さんに会社へ電話をかけて欲しかったら
単純に03-1234-5678とプッシュホンで押すだけ。

リンコフはいつものニコニコ笑顔で
「はぁーい。今すぐポケベル鳴らしまーす。」
と元気良く答えて佐藤さんのポケベルに電話しはじめた。

しつこいようだが、彼女の仕事は
音声ガイダンスの後に0312345678って押すだけ。

ところが、リンコフは
佐藤さんお疲れ様でぇーす。リンコフです!
お客様から問い合わせが入りましたので
折り返しお電話差し上げてくださぁーい。

とハキハキと語った。

リンコフがポケベルガイダンスに語り始めた途端に
一人振り向き、二人振り向き、三人振り向き、
彼女が元気良く語り終わったころには
オフィス全員がリンコフに釘付けになっていた。
受話器をおいた瞬間、オフィス内が大爆笑の渦。

リンコフは訳がわからず
「何ですか?何ですか?今、訛ってましたか?」と。

笑いすぎて誰も返答できない。
数分たって営業課長がやっと口を開いた。

「いやいや、素敵な標準語だったよ。
でも、ポケベルには音声メッセージは残せないんだよ。
支店の電話番号をプッシュホンで押すだけなんだな~。
ひひひぃぃ~。それにしても可愛い間違いだった。」

「えぇぇ~そうだったんですか~!! 恥ずかしい~!!
もしかしてみなさんにも聞こえてました?」

「うん、もちろん。でもすっごく可愛かった!」 




いまどきは小学生でも携帯電話を持っている時代だけれど
その当時はとってもアナログな世の中だった。

都内の高校生だってポケベル持つ子なんて
いなかったんじゃないだろうか。

純粋純朴のリンコフは
こうして周りを楽しませながら
ひとつづつ世の中を知っていった。

それから数年後、
同郷のお寺の跡取りさんと結婚して
東北へ帰っていった。

お寺の跡取りさんも同時期に
東京の大学に入学して
二人はずっと付き合っていた。

結婚式のリンコフは
文金高島田が本当に良く似合っていた。

今は檀家さんをあの笑顔で笑わせてるんだろうな。











******************************
前回の記事からひきつづきのオフィス編でした。
短期間とはいえオフィスで仕事をしていると
日本で経験したOL生活を思い出します。

こんなことを書いてる私も、
当時はポケベルなんて持っていなかったし
使い方も知らなかった。
周りの人が使っているのを見てこっそり覚えました。

リンコフの伝言があまりにもカワイイ間違い伝言だったので
みんな悪気なく笑っちゃったけど、誰でもこうして間違いをしながら大人になるんですよね。
by chipsalsa | 2009-08-01 10:11 | 人間社会のもろもろ
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ども、チプサル母です。人間社会をまったり綴ってます。猫のチップとサルサ(チプサル)とチプサル父(相方=アジア系米人)とNY州Brooklyn在住。

by chipsalsa
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